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「ジャイアント・ステップ」 コルトレーンのコード進行について [Jazz]

長らくお待たせいたしました。「ジャイアント・ステップ/コルトレーン」のコード進行について、お話したいと思います。

これは、現時点での私的な考察であり、また自分自身のための覚書でもありますので、一つの考え方として捉えていただければ、ありがたい、と思います。

ではまず最初に、「ジャイアント・ステップ」のコード進行を見てください。

 

  B    D7      /  G    B♭7  /   E♭ /  Am     D7  /

  G   B♭7  /  E♭  F♯7 /     B      /  Fm    B♭7 /  

      E♭  /   Am   D7   /     G      /  C♯m 7   F♯7 /

     B          /   Fm    B♭7 /    E♭ / ( C♯m7   F♯7)  //

 

ということで、なんじゃ、こりゃ の世界ですね~、これをもって「コルトレーン進行」とか「ジャイアント・ステップ進行」と称するそうですが・・・・。

この曲は難曲中の難曲とされ、あまたのミュージシャンがチャレンジを試みていますが、アドリブの途中で行き詰ったり、あきらめてバッキングに徹してしまったり、とエピソードには事欠かない曲です。

え、私ですか? ぶるぶる、と、とんでもないですわ、一生絶対人前では弾きませんわ。 (ただし、密室秘儀悦楽はありうるかも・・・)

で、以前からなんでこんな難しい曲をコルトレーンは作ったのか、ず~っと、というか、時々暇なときというか、気が向いた時に考えていたんですが。(^_^;)

理論書やら、いろんな人の解説やらを読むと、「短3度、完全4度を繰り返す進行、これをコルトレーン進行という」なんぞと書いてあって、その行間からは「ごちゃごちゃゴタクならべんなよ、丸覚えしろ、丸覚え! 俺だってはっきりわかんねえんだ、つっこみはなしだぜ。」みたいな雰囲気が、漂ってるように感じたのは、私だけ~?かも。

でもこれでは納得いかないので、じ~っと楽譜(リードシートですが)見つめて、自分なりに考えてたんですわ。

で、ある時、エルビン・ジョーンズ(コルトレーンと活動を共にしたドラマー)が来日した時に、このコード進行について、図を描いて説明していた、ということを聞いて、はた、とひらめいたんですね。

 「サイクル・オブ・5thとちゃうやろか

ということで、描いてみました。 

(ていうか、図は下請けに描いていただきました・・・・。)

                                                                           
                                           

                          ↑ サイクル・オブ5th ( 5度圏のサイクル )

えと、この図はジャズやポピュラーでよく使うものなので、クラシックで使用するものとは、向きが逆になっています。

GはCへ、CはFへ、と進む訳ですね。

 ここでとっても大切なことを一つ。 つまり、西洋音楽の和声は5度進行が基本である、ということです。  ドミナント・モーションやモーション・オブ5thといった、5度進行があったからこそ、西洋音楽が発展したのだ、という説もあるのです。

ですから、私が納得できなかったさっきの解説、「短3度、完全4度進行説」は、コード1つずつを見ると確かにそうですが、肝心な5度進行について言及していないからわかりにくかった、もう少しいえば、転調についても無視していたので、もっとわかりにくかった、といえるのです。(私だけかもしれませんが・・・)

では、もう一度ジャイアント・ステップのコード進行を見てみましょう。
この曲は、目まぐるしいほどくるくると転調を繰り返していますが。

そのトニックにあたるコードを取り出してみると、B,G、E♭、この3つであることがわかります。

トニックの直前のコード、D7,  B♭7 , F♯7 はそれぞれ次の G,E♭、Bに対して5度進行(ドミナント・モーション)していることがわかりますね。
ですから、サイクル・オブ5thの図で見ると、D7はGへ、B♭7はE♭へと、法則どおりにお隣へ進んでいます。 (ルート音を見てください。レミファソ、じゃなく、レドシラソと5度下がります。)

ここまでは、誰でも気がつく当たり前のことですが、問題はこのドミナントモーションではなく、転調前のトニックコードと転調先のトニックとの音程だったのです。

つまり、BとGは、シドレミファソ、の増5度、GとE♭も増5度、E♭とBも増5度の音程になるように作られているのです!

ここで、もう一度、コード進行図を見てください。

横の流れの、1段目1,2,3小節のB,G,E♭はそれぞれ増5度。
同様に、   2段目5,6,7小節目のG,E♭、Bも、増5度。

3,4段目は9,11,13,15小節目のE♭、G、B,E♭も増5度ですが、こちらは後で説明しますが、曲の後ろから逆に音程を勘定してください。

そして、縦の1段目、2段目、3段目、4段目の1小節目のコード、B,G,E♭、B,と各々3小節目の E♭、B,G,E♭も、増5度関係にあることが、わかります。

なんと、縦、横ともに増5度になるように作曲したわけですね、やっぱり、こりゃ天才ですわ    すご~い


そこで、もう一度下請け作のサイクル・オブ5thの図に、これを乗っけてみると・・・・

             

なんということでしょう

 赤線で示したように、B,G,E♭を結ぶとサイクル・オブ5thの円の上に、正三角形ができたではありませんか!!

図を見ながらコードをたどっていくと、前半は B → G → E♭いったんGに戻って、E♭ → B と、時計回りに、正三角形ができます。

そして、曲の後半は、今度は E♭ → G → B → E♭ と、今度は逆回りに正三角形が描かれる、というわけなのです。

う、美しい・・・これが数学者のいうところの、エレガント、ということなのか・・・

たぶん、エルビン・ジョーンズはこの図を描いて、説明したんだと思います。

ドミナント・モーションはさっきも書きましたが、完全5度下へ解決します。
増5度とは、完全5度よりも半音多い音程です。

通常のドミナント・モーションであれば、5度ずつ図のようにお隣へ、お隣へと、ちょびちょび進んでいくのですが、ほんの半歩(半音)増えただけで、コード3個すっとばして進んでいくという 大また歩き になっちゃう、という魔法のような進行を、コルトレーンは創造していた ということなのです。

 ほんの半歩(半音)増やしたら、すごい大また歩きになった
  
  これが「ジャイアント・ステップ」命名の真実ではないでしょうか 
   

コルトレーンは天才だ! これからは、「ジャイアント・ステップ」を聞くとき 「で~か~い~あ~し~」なんて歌わずに、黙って円に内接する正三角形を書きながら、敬意をささげようっと 

Giant Steps     ←これがその「でかい足」です。

   「バラード」と比べると、何があったの?

   と聞きたくなるほどの、トンガリぶり

        

 

東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編     ←  これは、かの菊池成孔さんの著書です。

       似たようなことが書いてある、とのことですがナナ

       メ読みでは、該当箇所見つけられず・・・・

       誰か、探して      


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月

な、なるほど~
わかりやすい!
・・・でも、キライなコードばっかり(^_^;)
#キライ ♭キライ (笑)
by 月 (2006-10-13 21:41) 

hirosonya

月様、毎度ありがとうございます。m(_ _)m
ま~、人によって好き、嫌いがありますものね。(^_^;)
by hirosonya (2006-10-13 22:20) 

Kiichi

遅まきながら、ブログ
拝読しました。

この前、直接伺いましたが
改めて凄い。コルトレーン…

しかも、この曲そういう一見
音楽と何の関係も無い正三角形
という様式でありながら、
何気なしに聴くと、えらく
かっこいい!
(多分に私見では、有りますが。)
by Kiichi (2006-10-19 00:14) 

サンサンてるよ

深遠なる趣なれど、私にはチンプンカンプンの世界。今度、個別でご指導を・・文字は見えども音が聞こえてこない音楽オンチをお哀れみくださいませ。
by サンサンてるよ (2006-10-25 00:22) 

junne

はじめまして。
「ジャイアント・ステップス」の話、「東大のアイラー」ではP.112~118あたりに載ってます
(単行本版。文庫では何ページかわかりませんがいずれにしても第5章の半ばくらいです)
by junne (2010-11-11 15:29) 

ユキタロウ

素晴らしい記事を有難うございます!!

「ジャイアント・ステップス」は大好きですが、コードのことは全く分からない私でも、凄いな~とは思います!(汗)

久しぶりに「ライブインジャパン」のLPが聴きたくなりました。あの混沌の中で浮遊する感触が堪りません・・・。
by ユキタロウ (2010-11-11 21:05) 

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